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Column

自毛植毛に関するコラムをご紹介します。

薄毛と言っても症状は多種多様 薄毛の種類

単に薄毛といっても、その症状には種類があります。各症状について皮膚科医の立場から解説致します。

AGA 男性型脱毛症

男性の脱毛症の中で最も代表的なのが「AGA(男性型脱毛症)」です。
広告などを通じて、一般の方々にも広く知られるようになりましたが、実際にはどのような症状なのか分かっていない人が多いのも現状です。

男性ホルモンを活性させる「酵素」がAGAの主因です。

AGAは「Androgenetic Alopecia(男性ホルモンによる脱毛)」の略なので、AGAの主因は男性ホルモンの働きによるものと思っている人が多いようです。大筋では間違いではないのですが、厳密に言うと男性ホルモンが主因なのではなく、男性ホルモンを活性させる酵素によってホルモンの働きが過剰となり、脱毛が進みます。そのため、「主因」は男性ホルモンというより酵素の方なのです。
男性ホルモンにはいくつかの種類があり、それぞれ生殖器の発達や機能促進、筋肉の増強、体毛の発育促進などの役割を担っています。その中の、毛髪や体毛に関わる「テストステロン」が酵素によって活性され、働き過ぎることによって抜け毛や薄毛の症状が発生します。
つまり、AGAの発症しやすさは男性ホルモンの分泌量が「多い・少ない」ではなく、男性ホルモンの一部因子が「働き過ぎているか否か」によって決まるもの。テストステロンを活性させる酵素は、遺伝子によって産生される量やタイミングが決まるため、「父親がハゲていると息子もハゲやすい」という俗説は、ある程度まで医学的に説明できる事象と言えます。

AGA治療は、まずしっかりと症状と向き合うことが大切です。

治療方針を決定する前に、十分な問診と診察を行い、どういうタイプの脱毛か、その原因は何なのか、症状が顕在化しているのは頭部のどの部分か、どの程度まで進行しているか…などを正確に診なければなりません。
AGAによる脱毛症であると診断がついたら、通常は「プロペシア」や「ザガーロ」を処方する薬物療法を選択しますが、必ずしもそれが第一選択とは限りません。男性ホルモンが働き過ぎていること以外にも脱毛を促進し、毛根が「成長期」に移行するのを抑制している誘因・副因が潜んでいるかもしれないからです。
また、治療期間についても、医師が決めるよりも「患者さんご本人が納得できるまで」という言い方が正確です。内服薬の効果で抜け毛が治まれば良いという方もいる一方で、薄毛部分が目立たなくなるまで毛髪を復活させたいという方もおられますから、それによって期間も治療法の選択肢も変わる場合があります。
内服薬には、多少なりとも副作用のリスクがあるため、場合によっては一時的に薬を止め、様子を見て再開する…といった“長期戦”になるケースもあります。しっかりと症状と向き合い、ご本人がきちんと納得いくまで治療を行うことが、AGA治療で後悔しないために必要な心構えです。

FAGA 女性の男性型脱毛症(びまん性脱毛症など)

「AGA(男性型脱毛症)」と同様、男性ホルモンに由来する脱毛症が女性にも発生することがあります。一般に「FAGA(女性における男性型脱毛症)」と呼ばれていますが、その発症機序は男性とは異なります。

「男性ホルモン性」ではあるものの、“働き過ぎ”ではありません。

男性のおよそ5%ほどですが、女性の体内にも一定の血中濃度で男性ホルモンが存在しています。そのため、女性に男性ホルモン性の脱毛症が生じた場合、「AGA」に「F(Female)」を付けた「FAGA(Female Androgenetic Alopecia)と診断します。
ただ、男性のAGAは、男性ホルモンの一種であるテストステロンが酵素によって働き過ぎ、毛乳頭細胞を萎縮させることで発症するのですが、女性の場合、ホルモンの働き過ぎではなく、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量が急激に減少し、男性ホルモンのバランスが崩れる(男性ホルモンの影響が優位になる)ことによって脱毛を生じるのです。
エストロゲンの分泌量が低下する原因としては、主に加齢によるもの、過度なストレスや睡眠不足などによる自律神経の乱れなどがあり、特に閉経後の更年期女性に多く発症します。

脱毛の進み方も男性の「AGA」とは異なります

男性のAGAは、活性したテストステロンの影響を受けやすい頭頂部や生え際が、局所的に薄くなる傾向があるほか、治療をせずに放置しておくと、毛髪が完全に抜けてしまうケースも少なくはありません。
しかしFAGAの場合、毛髪が細くなって薄くなる状態が、頭頂部を中心に進んでいくものの、男性のようにはげ上がることはありません。『女性ホルモンの分泌量が急激に減少する』とは言っても、一定量は高齢になっても分泌され続けるからです。

FAGAの治療は経験を積んだ医療機関で

加齢に伴う女性ホルモンの分泌量減少が主な原因だけに、FAGAの治療は内分泌系にも詳しい皮膚科専門医に相談すべきです。
男性のAGAのように、医学的に認められた治療法はありませんが、FDA(アメリカ食品医薬品局=日本の厚生労働省に該当する公的機関)が唯一、治療効果に対して肯定的なのは、「ミノキシジル」という外用薬です。
もともとは、血圧を下げるための血管拡張薬として開発された薬なのですが、販売後に発毛の効果もあることが判り、発毛促進薬として改良されたものです。AGAの内服薬のように、抜け毛・薄毛の直接的な原因にアプローチする薬ではないものの、頭皮の血流と発毛とに関わりがあることは判っているので、女性の抜け毛・薄毛治療においては有用な治療薬と言えます。
最近では、頭皮の代謝環境を整えることで血流を改善させる「パントガール」という内服薬も、治療に用いられるようになりました。

円形脱毛症

中高年女性に特有のFAGAと違って、お子さんに生じることもある「円形脱毛症」。自己免疫疾患の影響だとする説やホルモンバランス説などがあるものの、今のところ、医学的なエビデンスはありません。男性が発症することもあるのですが、ここでは女性の円形脱毛症について、皮膚科医の立場から解説します。

突然の脱毛が「円形脱毛症」の特徴です。

患者さんの多くが、“ある日突然、抜けていた”と訴えるように、コイン型に髪が抜ける円形脱毛症は、女性に多い突発性の脱毛症です。
発症原因としては、自己免疫疾患、過度の肉体的疲労の蓄積、何らかの感染症、ホルモンバランスの乱れ、局部的な皮膚疾患など様々な説が出ていますが、どれも確証はありません。
中高年ばかりでなく小児でも発症者が少なくないこと、女性ほどではないにせよ、男性が発症するケースもあることなどから、疲労やストレスなどが引き金となり、免疫機能に異常が生じることが主因ではないかとの見方が主流になっています。

「単発型」だけではない円形脱毛症の病態

「円形脱毛症」という名称から、いわゆる“10円ハゲ”などと呼ばれる一箇所のみの局所脱毛(通常単発型)をイメージする方が多く、実際、一番多いのは通常単発型の患者さんです。
しかし、通常単発型の脱毛が複数箇所に発生する「通常多発型」、全ての毛髪が抜け落ちる「全頭型」、円形ではなく細長くうねった形状で抜ける「蛇行型」、毛髪だけで無く全身の体毛も抜ける「汎発型」に分類されます。

免疫機能の異常で毛根が攻撃される!?

先ほど、「自己免疫疾患」や「免疫機能の異常」が円形脱毛症の原因と考えられている…と述べましたが、免疫機能と脱毛とがどのように関わっているのかについて解説します。
ご存知のように免疫は、体内に侵入する細菌やウイルスなどを攻撃し、私たちの身体を守ってくれる生体機能です。通常、免疫機能を司るリンパ球が「外敵」として認識するのは、外部から侵入する異物や体内で発生した異常細胞(がんなど)に限られるのですが、何らかの原因でその機能が狂ってしまうと、毛根を異物だと勘違いし、攻撃をはじめてしまうのです。
実際、代表的な自己免疫疾患の1つであるアトピー性皮膚炎の患者さんは、若いうちに円形脱毛症を発症することが多く、円形脱毛症の患者さんの半数以上は、本人あるいは親族に、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎、気管支喘息など、自己免疫疾患が見られるとするデータもあるようです。

過剰に心配せず皮膚科専門医と相談しましょう。

前述のように、円形脱毛症は症状が突然発生することが多いため、驚きのあまり、ネット等で販売されている医学的根拠の無い育毛剤を購入してしまう人も少なくはありません。ただ、円形脱毛症は、1年以内に治癒したり症状が軽くなったりするケースが多いので、慌てず、過剰に心配することなく、女性の円形脱毛症に詳しい皮膚科専門医を受診するようにしましょう。
明らかに免疫機能の異常が原因と思われる場合は、ステロイドの外用薬(塗り薬)や、症状によっては内服の抗アレルギー薬を処方して、経過を観察します。患部に、薬剤を直接注射することもあります。ただし、ステロイド系の薬には副作用のリスクが考えられるため、脱毛症の専門医がいる医療機関を受診することが肝心です。

若年性脱毛症

脱毛症の分類に「若年性脱毛症」という病態はなく、一般に、40~50歳代で発症することの多いAGAが、20~30歳代で発症したものを指す場合が多いようです。ただ、最近は生活リズムの乱れや過剰なダイエットなどが原因で、10歳代~20歳代の女性に脱毛症状が現れることも増えています。

主因は「生え替わりサイクル」の乱れ。

「薄毛相談室」のページで説明したように、毛髪の生え替わりサイクル(毛周期)は「成長期」と「休止期」によって構成されています。
毛根の毛乳頭細胞によって作られた新しい細胞は、頭皮に向けて押し上げられて毛幹となり、その後、1日あたり平均0.3mmほどのペースで伸び続けます。その後、3~6年でその細胞は寿命を終え、3ヵ月ほどの休止期を経てから、毛乳頭細胞が再び細胞分裂を開始…といった具合に、毛周期が規則正しく繰り返されることで、生涯を通じて髪の毛は伸び続けるのです。
ところが近年、女性のライフスタイルの多様化に伴って毛周期が狂い、まだ抜ける時期ではない毛髪が抜けたり、毛根が休止期から成長期に移行するのが遅れたりすることで毛髪の本数が減少するケースが増えてきました。
生え替わりサイクルの乱れにより、頭髪全体のボリュームが低下する状態が、女性の「若年性脱毛症」と呼ばれるようになりました。

主因は睡眠不足や栄養の偏りなど多種多様。

女性の若年性脱毛症の原因として多く見られるのは、睡眠不足による自律神経の乱れ。深夜までスマホゲームやSNSを使っていて、良好な睡眠が取れていない生活が続くと、自律神経が乱れて血流が悪くなり、頭皮と毛根に十分な栄養が行きわたらなくなります。それが原因となり、生え替わりサイクルが乱れてしまうのです。
過度のダイエットによる栄養の偏りや不足が、若年性脱毛症の原因となるケースも多く見られます。「FAGA」のページで解説したように、女性の毛髪の健康な生育には、女性ホルモンの1つであるエストロゲンが必要不可欠。ところが無理なダイエット、特に栄養バランスを全く考慮しない“○○抜きダイエット”を続けると、ホルモン分泌のバランスが崩れ、薄毛になりやすくなるのです。
髪のカラーリング剤やパーマ液等が頭皮にダメージを与えて、毛髪の生育を悪化させているケースも見られます。

まずは専門医を受診して生活習慣の見直しを

薄毛や脱毛の原因が、主に生活リズムや食生活にあると思われる以上、症状改善のために行わねばならないのは生活習慣の見直しと改善です。ただ、女性の脱毛症に詳しい皮膚科専門医を1度は受診し、医療的な介入の必要性について確認しておくべきです。
ホルモンバランスの乱れが非常に大きい場合、中高年女性に多いFAGAが30歳代あたりから始まるケースもあり、その場合は生活習慣の見直しくらいでは症状の進行を抑えられないことがあります。また、何らかの内分泌系疾患が隠れている可能性も完全には否定できません。カラーリング剤などで頭皮が著しく傷んでいる場合は、皮膚科的治療を行うことで、より効果的な症状の改善が期待できるはずです。

抜け毛

「抜け毛」は、「正常な抜け毛」と「脱毛症に分類すべき抜け毛」とに大別されます。疾患的要因が全く無い人でも、1日平均90本ほどの髪が抜け落ちており、これを「脱毛症」と言わないからです。ここでは、様々な原因によって抜ける本数が生える本数を上回り、毛髪が薄くなる、頭皮が露出するなどの状態になる抜け毛について解説します。

日常生活の中にも、抜け毛の原因はあります。

このページでは、「脱毛症に分類すべき抜け毛」について説明しますので、正常な抜け毛(「毛周期」による抜け毛)については本サイトの「毛髪の基礎知識」ページをご参照下さい。まず、日常生活における何らかの“習慣”が、脱毛症の原因となるケースがあります。
皮膚科を訪れる患者さんの中で多いのが、過剰なダイエットによる栄養の偏りや、喫煙習慣による頭皮の血行不良による抜け毛です。過剰なストレスや、習慣的な睡眠不足も脱毛症の原因となり得ます。
女性の場合、妊娠・出産によるホルモンバランスの大幅な変化が原因で、一時的にFAGAを発症することもあります。また、髪を一定方向に引っ張り続ける、いわゆる“ひっつめ髪”スタイルを習慣化したり、いつも同じ場所に分け目をつけたりすることで、引っ張られている箇所の毛根に負担がかかり過ぎて抜け毛が起きやすくなることもあります。

疾患的要因の抜け毛について

男性ホルモンの働きが活性され過ぎることによるAGA、更年期障害などによる女性ホルモン分泌量で発症するFAGAは、皮膚科の診療対象となる脱毛症の代表例です。「女性の円形脱毛症」ページで紹介した円形脱毛症の中にも、自己免疫疾患や何らかの感染症など、疾患的要因が抜け毛の原因となっているものがあります。
AGAなどと比較すると非常に少ない症例ですが、水虫などの原因にもなる白癬菌が頭皮や毛髪そのものに感染し、頭皮の炎症と脱毛が生じる「白癬症」という皮膚疾患もあります。また、関節リウマチや膠原病など全身性の自己免疫疾患が原因となって脱毛症を発症するケースもあります。

専門医を受診して原因の解明を

正常範囲の抜け毛なのか、早めの対処が必要な疾患的要因による抜け毛なのかの判断は、自分ではなかなかできません。
特に一定以上の年齢の方の場合、加齢によって頭皮が固くなり、血行が悪くなることで薄毛・抜け毛が進行することが珍しくありません。そのこと自体は、ごく一般的な老化現象であり「疾患」とは見なしませんが、ご本人にとって深刻な悩みの原因になるようであれば、できるだけ早めに治療を開始した方が良いからです。
何らかの皮膚疾患が原因の抜け毛も、皮膚科専門医が診断しなければ、適切ではない薬を処方される可能性があります。まずは皮膚科専門医を受診し、正確な診断に基づく適切な治療や指導を受けるようにして下さい。