皮膚科医の立場から
語る「薬物療法」の
メリット/デメリット

2005年、AGA治療薬である「プロペシア」が厚生労働省の認可を受け、その後、「ザガーロ」の使用も認可された(※注)ことで、皮膚科以外に内科や循環器科でも、AGA治療薬の処方を行うようになりました。内服薬以外にも、塗り薬、注射剤など複数種の薬が脱毛症治療に用いられています。
代表的な治療法の1つである「薬物療法」について、皮膚科医の立場から解説します。
(※注 「ザガーロ」はプロペシアと違い、使用認可されているものの保険収載はされていないため、自費診療となります)

薬治療には内服・外用・注射などの種類があります。

プロペシアが厚労省認可を受けたことで、「脱毛症治療薬=内服薬」というイメージが広まっていますが、内服薬が必ずしもベストというわけではありません。前述のように、AGAを発症する原因は、一部の男性ホルモンが酵素によって働き過ぎることなので、男性ホルモンの働きを抑えることが内服薬の目的となります。
しかし、「内部から働きかける薬」は、肝臓で代謝されたり血中の薬物濃度を一定時間維持することによって効果が出るように作られているので、多かれ少なかれ副作用のリスクがあります。
そのため、主に女性型脱毛症の治療に用いられるミノキシジルローションをはじめ、小範囲の円形脱毛症にはステロイドや塩化カルプロニウムなどの外用薬(塗り薬)の方が適している場合もあります。円形脱毛症で、塗布薬では効果が出ない場合、ステロイドを脱毛部分に注射で注入するという治療法もあります。
少し乱暴なやり方に思えるかもしれませんが、人工的にかぶれを起こさせる特殊な薬品を脱毛部に塗り、弱い皮膚炎を繰り返し起こさせて発毛しやすくさせる治療法も、日本皮膚科学会が推奨する治療法の1つ。同じ薬物療法でも、症状に合わせた治療法を選ぶことが大切なのです。

「どの診療科でも」OKというわけではありません。

前述のように、近年は皮膚科以外でも、AGA治療薬の処方を受けられるようになりました。では、どこの診療科でも同じ治療効果が得られるか…と言うと、答えは「NO」です。典型的なAGAの患者さんに、典型的な飲み薬であるプロペシアを処方した場合でも、万が一、患者さんのQOL(生活の質)を大幅に低下させるような副作用が現れた場合、医師はそれに対する対処法も熟知しておかねばなりません。
また、それぞれの薬には定められた用量がありますが、効き過ぎている、あるいは予想していた効果が出ない場合、患者さんと相談しながら用量をコントロールせねばならないことがあります。そのため、医師には薬の“効き具合”を正確に見極める技量も求められるわけです。
医学界では「リスク&ベネフィット」という言葉を用いますが、これは治療、特に薬物療法のメリットとデメリットのバランスを考えた上で、治療法を選択するという意味。どんなに高い効果が期待できる治療法であっても、それによって生じる健康上のリスクや、治療費用などのデメリットがあまりにも大きいと、その治療を行う意味がありません。

高齢になっても脱毛治療の効果はあります。

定年後も働き続ける元気な高齢者が増えてきた影響か、最近は若い世代の人ばかりでなく、高齢の方が脱毛症の相談で医療機関を受診する件数も増えています。高齢者であっても、適切な治療を施せば抜け毛・薄毛の改善効果はあるのですが、慢性の高血圧や動脈硬化など、加齢に伴う身体症状まで考慮した治療法を検討できる知識が必要です。
高齢の方の中には、“今さら治療を始めても…”と諦めている方もおられるかもしれませんが、私の経験上、きちんとした治療を行えば、年齢にはさほど関係なく効果が現れます。期待できる治療効果と予想すべき副作用、治療費や治療期間などについてもじっくりと相談し、その上で、「ここには抜け毛・薄毛治療に精通した、信頼できる医師がいる」と納得できる医療機関を選べば、快活な老後を送る一助となるのではないでしょうか。